1階 絶滅した動物たち
和 名 |
英 名 |
学 名 |
ケマンモス |
woolly mammoth |
Mammuthus primigenius |
マンモス属のうち、約10000年前まで生息したのがケマンモス(Mammuthus primigenius・毛長マンモス、ウーリーマンモス)である。文字通り長い体毛に覆われた彼らは、寒冷な気候にも耐え、ユーラシア大陸から北米大陸に広く分布した。日本でも北海道からは化石の発見例がある。
ヴュルム氷期の中、35000年前までにはロシア平原に進出した人類(Homo sapiens)は、彼らケマンモスを食料として、また骨や牙は加工して各種道具や装身具として用い、さらには「ビーナス」と呼ばれる女性像を生み出していた。現在のウクライナを中心とした地方では、牙や骨を組み合わせた住居も見つかっている。おそらく皮も利用していたことだろう。
その後、約28000年前、ウラル山脈を越えたシベリアにはマンモス・ステップと呼ばれる寒冷な草原が広がり、バイカル湖付近もケマンモスの生息地であった。この過酷な環境にも進出した人類は、やはりケマンモスを利用して暮らしていたのである。
雪解けが近い季節、2人の男が、キャンプ地から遠くない場所で、雪原に顔を出した死んだマンモスの牙を持ち帰ろうとしていた。彼らの手にする槍も、牙を加工し作ったものだ。
不意に突風にお襲われ、視界がなくなる。いわゆるホワイトアウトである。雪原で暮らす彼らは、こんな時はじっと立ち止まり、風の止むのを待つ。ふと視界が開けた時、彼らは思わず身構えた。目の前に、一頭の巨大なケマンモスが悠然と歩いていたのだ。向こうもこちらの気配には気付いていなかったようだ。群れからはぐれたのだろうか、無表情にこちらに一瞥を向け、再び吹き荒れた風なのかに消えていった。
男たちも、たった2人でケマンモスを仕留めようとは無論思っていない。まずは、足元の牙を持ち帰ろう。あいつの足跡を追うかどうかは、それから決めればいい。
参考文献
大塚則久他 2013『特別展マンモス「YUKA」シベリアの永久凍土から現れた少女マンモス』読売新聞東京本社
海部陽介 2005『人類がたどってきた道』 NHKブックス
G.フロパーチェフ・E.ギリヤ・木村英明 2013『氷河期の極北に挑むホモ・サピエンス–マンモスハンターたちの暮らしと技−』雄山閣
馬場錬成 1981『氷河時代の王者 大マンモス展–ソ連科学アカデミーコレクション』読売新聞社