一応考古学を専門としている身で、こういったものを製作するというのは、それなりにプレッシャーを感じるものです。この作品も、製作当時は「一生完成しないのではないか」と、自分でもあきらめかけていました。 設定としては、旧石器時代末(およそ15,000年前)、現在の野辺山高原付近を狩り場にしていた青年で、手にはこの時代を代表する石器である細石刃を使った槍を持たせています。これは黒曜石などから作った長さが3cmにも満たないような小さな石刃を、シカの角等に複数はめ込んで使ったものです。 人類の歴史を切り取るのも当初からの目標でしたが、特に旧石器時代や縄文時代については、資料の制約などから服装等も想像が多くならざるを得ません。この辺りは、時代性を飛び抜けない理性と、自分なりの挑戦のせめぎ合いになります。この作品で言えば、服や靴、腰の袋等については理性のうちにあり、たなびくマントは挑戦の部分となります。 これらの素材は鞣した革を想定しています。今よりも寒冷な時期であり、出土する石器や民俗例からも、防寒具として革製品を利用していたと思われます。なお、マントを止めるピン状の物は哺乳類の四肢骨です。 模型自体の完成は2006年2月でしたが、2011年に東京国立博物館の特集陳列「石に魅せられた先史時代の人々」の展示に使われることとなり、全体をリニューアルしました。特に顔面は全面改修。また目立ちませんが、手足の角度も、重心のかけ方を考えて直しています。また、当初はかなり若い人物と想定しましたが(10代前半)、改修にあたり少し年齢を上げました(20歳前後)。 今よりも平均気温が低かった当時、標高1300mの野辺山高原は、現在の2000m級の山岳地帯のような植生だったと思われます。それを再現すべく、食したであろうコケモモの実を、赤い樹脂粘土で再現しました。倒木は拾った小枝ですが、針葉樹を選ぶことで、やはり寒冷な気候を表現しています。(2014.04.07 記) ※下の写真は、改修前のもの。